コラム② 言葉の背景

しんば正樹

2009年12月17日 08:51

郷土新聞コラム

「言葉の背景」

「私もいつかは議員になり、地域のために働きたい」
まだ二十代前半の頃、東京である議員のお手伝いをさせて頂いていた時期があるのだが、生意気ながら、そのとき議員に話した言葉である。当時の私は、議員というのは高学歴で家柄も良く、話もうまくないとなれないとても敷居の高い仕事だと勝手に思っていたので厳しいことを言われる覚悟していた。
しかしその議員は「その気持ちがあれば、議員を目指す資格は十分にあるよ」と言ってくださった。他人と比べてとびきりの才能があったわけでもない私にとって、その一言は今でも大きな力になってくれている。

今年、秘書を経て念願の掛川市議選挙に立候補することになるのだが、いざ立候補する段階になると昔からの想いとは裏腹に、目の前に現れた「現実」という重圧に足が震える思いだった。
食事もあまり手がつかず、物思いにふけていたこともあった。

あるとき、そんな私に対して両親が一言声を掛けてくれた。
「夢を持ち続けて努力してきたのなら、挑戦する前から諦めずに、全力を尽くしてから後悔すればいいじゃない。」と、一言励ましてくれた。
あなたが目標に向かってがんばっているのだから、何があっても応援しますよ。まさにそんなメッセージにも聞こえる言葉だった。両親の言葉には力があり、何にも代え難い心強さだった。

だが次の瞬間、まったく考えていなかったことが頭をよぎった。
「俺なんかよりもずっと悩んでいる。」
そりゃそうである。いつになっても子供だと思っていた息子が議員に立候補しようとしているのだ。地元で活躍されてきた、ふたまわりも違う先輩たちの中で、たかだか三十を少し回ったばかりの息子が立候補しようとしているのだ。笑われたこともあっただろう。つらいことを言われたこともあっただろう。だがそんな事はおくびにも出さず、ただ、私を元気づけてくれた。

人の言葉には、その人だけの背景がある。あえて表現しない暖かい気持ちがある。
そんなことにやっと気付いた三十二歳の春であった。